新電力各社の提供が増えている市場連動型プラン。従来の料金プランとは異なるこの「新しい」料金プランにはリスクがあります。どのようなリスクがあるのか、実際の数字を示しながら解説します。
そもそも市場連動型とは何?
電力取引価格に連動して電気代が変動する料金プラン
市場連動型プランとは、「電力取引価格」に連動して電気代が変動する料金プランを指します。
電力取引価格とは、日本卸電力取引所というマーケットでの電気の取引価格です。この取引価格に連動して電気代が安くなったり、高くなったりするのが市場連動型プランです。
従来プランとの違いは?
一般的な電気料金メニューも、実は毎月電気代の単価が変動しています。この変動部分を燃料費調整制度といいます。
燃料費調整制度は燃料の輸入価格の変動を毎月の電気代に転嫁する仕組みで、1996年に導入され現在も多くの電力会社が採用しています。毎月のニュースで「来月の電気代は今月より◯◯円値上げになる」と紹介されているのは、この燃料費調整による変動部分です。
市場連動型プランでは電力取引価格を、燃料費調整制度では燃料価格(詳しくは財務省の「貿易統計」)を参照する違いがあります。
ちなみに、電力取引価格は一般的に天然ガスの価格に連動して水準感が決まり、更に電気の需要と供給のバランスによっても上下します。電力取引価格と燃料価格は必ずしも同じ値動きをしない点に注意が必要です。
市場連動型プランのリスクとは
電力取引価格しだいで電気代が「高額」になることがある
市場連動型プランは電力取引価格が上昇すると、電気代が高くなります。
一口に市場連動型プランといっても、市場に連動する部分が大きいプランもあれば、そうでないものもあるため一概には言えませんが、市場連動の度合いが強いモノは特に電力取引価格の高騰時に電気代が「高額」になる恐れがあります。
過去に高騰が起きたときの電気代は
「高額」になると言われても、イメージがしづらいと思うので実際に過去に電力取引価格の高騰が起きた時のデータをもとに、一般的な電気料金メニューと電気代を比較します。市場連動型プランは存在する市場連動度合いの高い料金プランを元に、架空の料金メニューを想定しました。一般家庭での平均的な使用条件(30A契約・348kWh・東京電力エリア)での試算です(同額の再エネ賦課金は含まない)
電気代 | |
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東京電力・従量電灯B 2021年1月 | 7668円 |
市場連動プラン 2021年1月 | 27015円 |
架空の市場連動型プランは、30分単位で料金単価が変動する料金プランの中で平均的な「電力取引価格*消費税+手数料10円/kWh、基本料金無し」をモデルケースとしています。計算を簡略化するため損失率は無し、また21年1月の月間平均の取引価格を元に計算しています。実際の利用シーンでは更に高くなる可能性の方が強いです(損失率を計算に加えるだけで約7%上がる)
電力取引価格が過去最高を記録した2021年1月を例にした試算では、市場連動型プランが東京電力エナジーパートナーの標準メニューと比較して3倍近くに高騰したことが分かります。
今後の電力取引価格の見通しは
今後の電力取引価格の見通しはかなり厳しいです。
日本では生成AIの普及によるデータセンターの増加、また大規模な半導体工場の新設により電力需要が増加していく見通しです。一方で原子力発電所の再稼働の遅れ、脱炭素化への対応から電力供給の伸びが追いつかない見通しが電力広域的推進機関から示されています。
電力取引価格は燃料価格(主に天然ガス価格)と電力需給により値動きが左右されます。電力需給が厳しくなることで、電力取引価格の高騰や高止まりが今後増加していくことが懸念されます。
市場連動型の見通しは「険しい」と言わざるを得ません。
メリットもある市場連動型プラン
市場連動型プランにはメリットもあります。
市場連動型プランは電力取引価格が下がれば、電気代が安くなります。通常の料金プランでは電力取引価格が下がっても電気代が安くなることはありません。2016年の電力小売全面自由化以降で最も電力取引価格が安かった2020年7月を例に、電気料金を比較します(試算条件は上記と同一)
電気代 | |
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東京電力・従量電灯B 2020年7月 | 8628円 |
市場連動プラン 2020年7月 | 5328円 |
2020年7月の取引価格で計算すると、電気代は3300円も安い結果となりました。率にして約39%も安いです。
2020年は世界的な感染症の拡大により燃料価格が下落、電力需給が緩和したことで電力取引価格も下落しました。
「良い時期」に使うことで約4割も電気代を削減できる可能性がある一方、悪いタイミングで利用すると3倍に高騰する可能性もあるのが市場連動型プランです。